所得税や住民税を算出するときに、所得から差し引くことができる医療費控除。
医療費控除の対象となる医療費には、治療費や手術費に加え、薬代も含まれます。
この記事では、最初に医療費控除の基本的なルールをご紹介し、医療費控除の対象となる薬代の見分け方を説明します。
また、医療費控除の特例制度として設けられた「セルフメディケーション税制」のルールや申請方法、対象の医薬品について解説しています。
所得税や住民税を算出するときに、所得から差し引くことができる医療費控除。
医療費控除の対象となる医療費には、治療費や手術費に加え、薬代も含まれます。
この記事では、最初に医療費控除の基本的なルールをご紹介し、医療費控除の対象となる薬代の見分け方を説明します。
また、医療費控除の特例制度として設けられた「セルフメディケーション税制」のルールや申請方法、対象の医薬品について解説しています。
所得控除の1つである医療費控除では、一部の薬代も医療費として含めることができます。
まずは医療費控除の概要を説明した上で、薬代が医療費控除の対象となる場合のルールや申請方法について解説します。
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定額を超えたときに、規定のルールで計算した金額分の所得控除を受けることができる制度です。
所得控除とは、税金を計算するときの基準となる「課税所得」から除外できるという仕組みです。
つまり、確定申告時に医療費控除を申請すると、支払った医療費に応じて課税所得が少なくなり、結果として税金が安くなるというものです。
なお、医療費控除は、医療費の自己負担額が年間で10万円を超えた場合*に申請することができます。
※所得が200万円未満の場合は、医療費の自己負担額が所得の5%を超えていれば申請可
医療費控除の対象となる医療費として薬代も適用できますが、対象は治療を目的したものに限定されます。
以下は、医療費控除の対象となる薬・対象外となる薬の一例です。
対象
など
対象外
など
治療を目的とした薬であれば、ドラッグストアで購入できる市販薬でも医療費控除を適用することができます。
一方で、市販のビタミン剤や漢方薬は医療費控除の対象外となります。
ただし、医師の処方を伴う場合は治療を目的とした処方と見なされるため、医療費控除の対象となる医療費として認められます。
薬代以外にも、医療費控除の対象となる医療費があります。
以下では、通院・入院、出産、歯科治療において、医療費控除の対象・対象外となる医療費の一例をまとめています。
対象 | 対象外 | |
---|---|---|
通院・入院 |
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出産 |
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歯科費用 |
|
|
上記はほんの一部ですが、医療費控除の対象となる医療費は、基本的には病気やけがの診療・治療、または分娩のための支払いです。
医師・看護師への謝礼や病院食以外の食費といった、直接治療に関係しない費用は控除対象医療費として認められません。
医療費控除を受けるためには、確定申告による申請が必要です。
1年間に支払った医療費を集計し、確定申告書にその他の記入事項とともに反映し、提出することで申請できます。
集計する医療費は、上記でご紹介した医療費控除の対象となる薬代や医療費です。
これらの領収書・レシートをまとめておき、合計金額を計算できるようにしておきましょう。
提出書類は確定申告書のほかにもあり、以下のものが挙げられます。
<医療費控除を受けるための確定申告に必要な書類>
※医療費通知とは、健康保険組合から「年間医療費のお知らせ」といった名称で送付される書類で、受診者の氏名や受診先機関の名称、医療費などが記載されているもの
従来は確定申告書の提出と併せて領収書・レシートを提出する必要がありましたが、2017年度分から不要となりました。
ただし、5年間は保存する必要があるので、捨てずにとっておきましょう。
<コラム>医療費控除は年末調整で申請できる?
医療費控除は、年末調整によって申請することができません。
そのため、会社員の方でも確定申告によって別途医療費控除を申請する必要があります。
所得控除は、一定の条件のもと、基本的に勤務先での年末調整を行うことで控除申請の手続きが完了しますが、医療費控除や寄附金控除、雑損控除は例外となります。
<確定申告による申請が必要である所得控除>
なお、医療費控除を申請する際、寄附金控除の一種であるふるさと納税のワンストップ特例を利用している方は注意が必要です。
寄附金控除とは、自治体や公益法人へ寄付を行ったときに控除できる制度です。
そして、ふるさと納税は、通常は確定申告にて寄附金控除の申請が必要ですが、特定の条件を満たしていれば寄付先の自治体が税金の手続きを代行してくれるワンストップ特例制度を利用でき、確定申告を行う必要がありません。
しかし、ワンストップ特例制度を申請した後に、医療費控除などで確定申告を行う場合は特例が無効となるため、寄附金控除として確定申告をする必要があります。
また、自然災害や火災、盗難などによる損害を受けた場合に所得金額から差し引ける雑損控除も確定申告による控除申請が必要です。
医療費控除は、所得が200万円以上ある方では、年間の医療費の自己負担額が10万円を超えた場合に申請できる制度ですが、ここでは、医療費控除の特例として10万円に満たない場合でも控除が適用できる「セルフメディケーション税制」の概要や申請方法についてご紹介します。
セルフメディケーション税制とは、特定の医薬品を購入したときの薬代を控除できる医療費控除の特例制度です。
控除額は、年間で1万2,000円を超えた支払い額分。
控除の上限額は8万8,000円と定められています。
通常の医療費控除と同様に所得から控除されるので、場合によっては所得税や住民税が安くなることがあります。
ただし、通常の医療費控除との併用ができないため、医療費の自己負担額が10万円以下の場合に申請すると良いでしょう。
なお、セルフメディケーション税制は特例であることから、対象期間が2017年1月1日?2021年12月31日までの期間限定の制度です。
ほかにも医療費控除とは異なる点がありますので、以下の比較表でそれぞれ見ていきましょう。
セルフメディケーション税制 | 医療費控除 | |
---|---|---|
対象期間 | 2017年1月1日2021年12月31日 | 無期限 |
対象者 | 日本に居住し、健康維持や増進のために一定の取り組みを行っている人 | 日本に居住し、医療費の自己負担額が10万円以上*である人 *総所得が200万円未満の場合は総所得の5%以上 |
控除限度額 | 8万8,000円 | 200万円 |
必要書類 |
|
|
セルフメディケーション税制の対象者は、健康維持や増進のための一定の取り組みを行っている人と定められています。
この「一定の取り組み」とは、定期健康診断や人間ドッグ、予防接種、がん検診などを指します。
申請時には、これらの取り組みを行ったことを証明する書類の提出が必要となります。
セルフメディケーション税制の対象はOTC医薬品*1(いわゆる市販薬)のみで、処方薬は対象外となります。
一般に購入できる薬は大きくOTC医薬品と処方薬の2つに分けられ、OTC医薬品は医師の処方箋がなくても購入できるもの、処方薬は医師の処方箋がなければ購入できないもの、と決められています。
さらに、セルフメディケーション税制の対象は、OTC医薬品の中でも厚生労働省が発表する対象品目一覧*2に掲載されている医薬品に限られます。
なお、医療費控除を適用する場合は、OTC医薬品・処方薬ともに控除対象の医療費に含められます。
1 OTC医薬品:「OTC」はOver The Counterの略で、対面販売の医薬品を指すが、市販薬と同じ意味で使われる。さらに、対面販売の指導医薬品と、郵送やインターネットでも販売可能な一般医薬品に分けられ、販売できる専門家や説明義務などが異なる
2 出典:厚生労働省|セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について|2 セルフメディケーション税制対象品目一覧|対象品目一覧
セルフメディケーション税制対象の医薬品はOTC医薬品のうち医療用から転用されたもので、「スイッチOTC医薬品」と呼ばれます。
対象の医薬品のパッケージには以下のロゴが掲載されているので、購入前にチェックしておきましょう。
また、領収書やレシートからもセルフメディケーション税制の対象商品であることを確認できます。
記載方法は店舗によって異なり、レシートの場合は対象商品名に印が付く、または対象と対象外の商品が分けて記載される、といった形がよく用いられています。
また、手書きの領収書の場合は、対象商品名がただし書きで記載されます。
なお、万が一レシートや領収書に対象商品が分かるような記載がなければ、購入した店舗に問い合わせてみてください。
セルフメディケーション税制を適用するためには、確定申告による申請を行います。
確定申告の方法は、医療費控除のときとほとんど同じです。
まずは、領収書やレシートから年間の医薬品代を集計した明細書を作成します。
確定申告書には控除額(年間の医薬品購入額?1万2,000円)*とその他の記入事項を反映します。
そして、明細書と確定申告書に加えて、前節で説明した定期健康診断や予防接種などを行ったことを証明する書類も併せて提出すれば申請完了です。(控除額の上限は8万8,000円)
<セルフメディケーション税制を受けるための確定申告に必要な書類>
なお、医療費控除と同様に、明細書を作成することで医薬品の領収書やレシートの提出は不要となりますが、5年間の保管義務があるので、捨てないよう注意しましょう。
薬代も医療費控除の対象となる医療費とされるので、控除額を計算するときには医療費に含めるようにしましょう。
ただし、対象となる医薬品は治療に関するものに限られます。
なお、年間の医療費の自己負担額が10万円(所得が200万円未満の場合は所得の5%)を超えない場合でも、国が指定する医薬品の購入額が年間で1万2,000円以上であればセルフメディケーション税制適用により税金を安くできるケースがあります。
医療費控除やセルフメディケーション税制は年末調整で申請できないので、会社員の場合でも別途確定申告による申請が必要です。
手間はかかりますが、所得税や住民税の負担を軽減できる可能性があるので、適用できるのかを一度確認してみると良いでしょう。
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