個人事業主が経費にできる項目
まず、「事業経費の範囲」「所得控除及び税額控除」の概要を解説します。
必要経費
必要経費とは、「売上原価」「収入を得るためにかかった費用」「間接的にかかった販売費」「一般管理費」などのことです。具体例は以下の通りです。
必要経費の具体例
- 販売するために仕入れた商品代
- 仕事の一部を外部に依頼した際に支払った外注費
- 店舗を借りて支払う地代家賃
- 従業員を雇用して支払う給与 など
必要経費の範囲は広いため、ざっくりと「事業収入を得るためにかかったものは経費だ」という認識で問題ないでしょう。
ただし、パソコンや車などの「10万円以上の固定資産」を購入した場合は、その年で全額経費にするのではなく、減価償却という方法で一定の年数にわたり経費とする必要があります。
また、住宅の一部を事務所や店舗として利用している場合、賃貸費用の一部を経費として計上することも可能です。
青色申告をすることによって認められる経費
確定申告には「白色申告」と「青色申告」があります。「青色申告」を選択した場合、次の5つの特典を受けることができます。
(青色申告をするには、「税務署への青色申告承認申請書の提出」と「複式簿記による帳簿作成」が必要です。)
1.青色申告控除
最大65万円の控除を受けることができる
2.少額減価償却資産
30万円未満の固定資産であれば、年間合計300万円まで一括で経費処理することができる(通常、10万円以上の固定資産は減価償却によって経費にする)
3.繰越欠損金、繰戻しによる所得税の還付
赤字決算となった場合に、赤字を翌年以降3年間繰り越すことができる
本年が赤字で前年が黒字であった場合、前年に遡って所得税の還付を受けることができる
4.青色専従者給与
家族に対して支払った給与を経費にできる(原則、親族間で支払ったものは経費にならない)
5.貸倒引当金
売掛金等の回収できない可能性を見積もり、一定割合の金額を経費とすることができる
按分した家事関連費
事業部分とプライベート部分の両方に関係する支出のことを家事関連費と言います。合理的な割合で按分することで、事業経費として計上することが可能です。
例えば、2LDKの賃貸住宅の一室を事務所としている場合、家賃を部屋の面積で按分することが考えられます。
また、事業のために自宅を利用している時間が、1日のうちの10時間であるとすれば、10時間÷24時間で利用割合を算出し、その割合で按分することも合理的な方法と言えるでしょう。
同様に、水道光熱費や通信費なども按分することができます。
ただし、必要以上に豪華な部屋を事務所として利用している場合や、通常では考えられないほどの高い光熱費などは、経費として認められないリスクが高いと言えます。
常識的な範囲において、合理的な方法で按分していることを説明できるようにしておきましょう。
経営セーフティ共済
経営セーフティ共済とは、取引先の倒産時に、無担保・無保証人で事業資金を借入できる共済で、個会社または個人事業者が加入することができます。
最大月20万円(年間240万円)まで払い込むことが可能で、払い込んだ金額はその年の経費となります。なお、払込後40ヵ月が経過してからの解約であれば、払い込んだ金額は全額返金されます。
ただし、返金された金額は収入に計上する必要があるため、赤字になっている年に解約するなどの工夫が必要です。
所得税の所得控除一覧
所得控除は全部で15種類あり、実際に支払った金額を基に控除額を計算する「物的控除」と、生活・扶養状況等により控除額を算出する「人的控除」があります。
内容と控除できる金額は以下の通りです。
種類 |
内容 |
控除金額 |
社会保険料控除 |
健康保険料、国民年金保険料、国民年金基金など※同一生計の家族分を含む※別居で仕送りをしている場合も含む |
実際に支払った社会保険料の合計金額 |
小規模企業共済等掛金控除 |
支払い時に所得控除を受けて積み立てることができ、事業を廃業する際に解約する場合は退職所得として受け取ることができる |
支払った掛金の合計金額(最大月7万円→年間最大84万円) |
生命保険料控除 |
生命保険、介護医療保険、個人年金保険 |
一定の方法により計算した金額(最大12万円) |
地震保険料控除 |
地震保険料、旧長期損害保険 |
一定の方法により計算した金額(最大5万円) |
寡婦ひとり親控除 |
配偶者と死別している場合、または離婚して扶養する子がいる場合 |
27万円(一定要件を満たす場合は35万円) |
勤労学生控除 |
学校等に通って働いている学生の場合(合計所得金額が75万円以下) |
27万円 |
障害者控除 |
本人が障害者、扶養親族が障害者の場合 |
特別障害:40万円(身体障害1・2級、精神障害1級)普通障害:27万円(特別障害者以外)同居特別障害者:75万円(特別障害者と同居) |
配偶者(特別)控除 |
配偶者のその年の所得が133万円未満の場合 |
38~1万円(納税者本人の所得と配偶者の所得により変動) |
扶養控除 |
同一生計の親族がいる場合 |
特定扶養:63万円(19歳~23歳未満)老人扶養:48万円(70歳~で非同居)同居老親等:58万円(70歳~で同居)一般扶養:38万円(16歳以上で上記以外) |
基礎控除 |
一定の所得以下の人に適用 |
合計所得金額2400万円以下:48万円合計所得金額2400万円超2450万円以下:32万円合計所得金額2450万円超2500万円以下:16万円 |
雑損控除 |
災害、盗難、横領で損害を受けた場合 |
下記のいずれかのうち多い金額・損害額-総所得金額等×10%・損失額のうち災害関連支出金の金額-5万円 |
医療費控除 |
治療費を一定額以上支払った場合 |
(支払った治療費-保険金等の補填金額)-10万円※その年の総所得金額200万円未満の場合は、総所得金額等×5% |
寄付金控除 |
一定の寄付をした場合 |
下記のいずれかのうち少ない金額・寄付金合計額-2,000円・所得金額×40% |
個人事業主が利用できる税額控除
所得控除は課税標準となる所得金額を減少させる効果がありますが、税額控除は所得税の負担を直接減少させる効果があります。ここでは、比較的活用しやすい税額控除を3種類解説します。
中小企業投資促進税制
中小企業者(個人事業者を含む)が機械装置等の一定の設備を取得した場合において、取得価額の30%の特別償却、または7%の税額控除を受けることができる制度です。
特別償却は、通常耐用年数にわたって行う減価償却を早期に行うことで、初年度に経費を多くとることができます。
一方、税額控除は、通常の減価償却に上乗せして受けることができるため、トータルでは税額控除のほうが有利です。まずは税額控除を受けることを検討しましょう。
所得拡大促進税制
従業員に対する給与支給額が前年と比較して増額した場合に受けられる制度です。
毎年改正があるため徐々に適用範囲は広がってきており、従業員を雇用している場合は適用できるか確認する必要があるでしょう。適用要件は下記の通りです。
通常
従業員に支給した給与(雇用調整助成金を控除した金額、親族への給与を除く)が前年と比較して1.5%以上増加した場合、増加した金額の15%を所得税から控除することができます。
上乗せ
従業員に支給した給与(雇用調整助成金を控除した金額、親族への給与を除く)が前年と比較して2.5%以上増加し、かつ次のいずれかを満たした場合、増加した金額の25%を所得税から控除することができます。
- 教育訓練費が前年比10%増
- 事業年度終了日までに経営力向上計画の認定を受けていること
なお、いずれの場合においても所得税の20%が上限となります。
住宅ローン控除
金融機関等で住宅ローンを組んで居住用住宅を取得した場合、ローンの年末残高に応じて一定の控除を受けることができます。
住宅ローン控除の内容は、令和4年の税制改正で大きく変更されています。
住宅ローン控除の変更点
- 住宅ローン控除率:1.0%→0.7%
- 般住宅の適用限度額:4000万円→3000万円
- 控除期間:10年→13年
- 中古住宅の要件緩和
- 床面積要件:50㎡→40㎡
- 所得制限:3000万円→2000万円