政府は、急速に進む高齢化に必要な環境を整備する目的で、「高齢社会対策大綱」の改定に向けた報告書をとりまとめました。
65歳以上で一定の収入を得ると公的年金の受給額が減る「在職老齢年金」の見直しも検討されています。
この記事では、在職老齢年金について解説します。
在職老齢年金は廃止される?制度の問題点や検討案について解説
【記事執筆】FP川辺 拓也
3,000人を超える顧客からの相談実績をもとに、社会保障制度や家計に必要な金融知識を分かりやすく提供。2級ファイナンシャルプランニング技能士。金融全般から、お金に関する政策まで幅広く専門領域があり、複数の金融メディアに多数寄稿。
在職老齢年金の現行制度
在職老齢年金とは、60歳以降に老齢厚生年金を受け取りながら働く場合、老齢厚生年金と月給や賞与の合計額が50万円を超えると、年金が減額される制度です。
出典:日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
50万円を超えた場合、超えた金額の半分が年金から減額されます。
例えば、年金の基本月額が15万円、総報酬月額が40万円の場合、2万5000円が、公的年金の受給額から減額されます。
(15万円+40万円-50万円)÷2=2万5000円
公的年金の受給権者は約248万人ですが、そのうち在職老齢年金を受け取っている人は約41万人でした。
しかし、高齢化が進む中で在職老齢年金の制度の問題がたびたび指摘されていました。
問題視されるようになった主な要因は「就労意欲の低下」を招く点です。
内閣府が調査した「令和5年版高齢社会白書」では、60歳以上の就業率は、徐々に増加しています。
出典:内閣府「令和5年版高齢社会白書」
各年代の就業率を2012年と2022年で比較すると、65歳以上69歳以下は13.7ポイント、74歳以下は10.5ポイント、75歳以上は2.6ポイント上昇しています。
年金以外の収入を得るために、仕事をしている高齢者は増加傾向にあります。
在職老齢年金の制度があると、働いて収入を得ても公的年金が減額されるため、就労意欲が低下すると指摘されています。
在職老齢年金は廃止される?
在職老齢年金の制度について検討されているのは、以下の2点です。
- 適用要件の一部を改正
- 制度の廃止
適用要件の一部を改正する案は、在職老齢年金が適用される50万円の上限額を引き上げる案です。
在職老齢年金の仕組みは、何度か改正されています。
直近では、2022年度に見直しされました。
これまでと同じく、在職老齢年金の制度を一部改正する可能性があるでしょう。
また、在職老齢年金の制度そのものを廃止する可能性もあります。
どちらの案になるかはわかりませんが、近く改定する「高齢社会対策大綱」で在職老齢年金のあり方がまとめられる見通しです。
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
- 内閣府「令和5年版高齢社会白書」