児童手当が拡充する一方で、政府は高校生の「扶養控除」を見直す方向で議論を行っています。
16~18歳の子どもがいる世帯は年間38万円の扶養控除が受けられますが、この扶養控除を25万円に引き下げる縮小案が出されました。
もし扶養控除が縮小された場合、世帯の税負担はどれだけ重くなるのでしょうか。
この記事では、扶養控除が見直しされる背景と、控除額が25万円に縮小された場合の負担額をシミュレーションします。
高校生の扶養控除が25万円に減額。年収別に児童手当との差し引き額をシミュレーション
【記事執筆】FP川辺 拓也
3,000人を超える顧客からの相談実績をもとに、社会保障制度や家計に必要な金融知識を分かりやすく提供。2級ファイナンシャルプランニング技能士。金融全般から、お金に関する政策まで幅広く専門領域があり、複数の金融メディアに多数寄稿。
扶養控除の縮小案とは?
扶養控除とは、同一世帯で扶養している親族がいると、所得税の負担が軽減される制度です。
扶養控除は、16歳以上で以下の4点を満たすと対象となります。
- 配偶者以外の親族または都道府県知事から養育を委託された児童(里子)や市町村長から養護を委託された老人
- 納税者と生計を一にしている
- 年間の合計所得金額が48万円以下
- 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でない
扶養控除の要件を満たせば、1人あたり38万円の所得控除が受けられます。
しかし、児童手当の支給が高校生まで拡充することに伴い、政府は高校生の扶養控除額の減額を検討しています。
児童手当の増額については、こちらの記事「2024年10月から児童手当が大幅増額。多子世帯で第3子以降の支給額は月3万円に」を参考にしてください。
扶養控除が見直される背景
前述の通り、扶養控除が見直される背景には「児童手当の拡充」が関係しています。
児童手当の支給対象が高校生まで延長されると、16~18歳の子どもがいる世帯に適用される扶養控除とあわせて支援が重複する形になります。
こうした支援の重複を解消する必要があるとして、政府は扶養控除の見直しを検討しています。
政府の試算では、仮に扶養控除を25万円に縮小しても、全世帯にプラスになると発表しています。
では、もし扶養控除が25万円に引き下げられた場合、世帯の負担額がどうなるのか、シミュレーションしてみましょう。
扶養控除を見直した場合の負担
配偶者と子ども1人を扶養している場合で、年収が300万円、500万円、800万円の世帯について、所得税と住民税をシミュレーションしてみます。
扶養控除は所得税を25万円、住民税は20万円で計算します。
また、社会保険料控除は考慮していません。
年収300万円の世帯
年収300万円の世帯の場合、所得税と住民税の概算は以下の通りです。
【扶養控除が縮小しない場合】
- 所得税:約3万9000円
- 住民税:約9万500円
- 合計:約12万9500円
【扶養控除が縮小した場合】
- 所得税:約4万5500円
- 住民税:約10万6000円
- 合計:約15万1500円
扶養控除が引き下げられた場合、所得税と住民税の負担は、年間約2万2000円増加することになります。
児童手当が12万円(1万円×12ヵ月)支給されると、実質9万8000円(月約8,200円)のプラスになります。
年収500万円の世帯
年収500万円の世帯の場合、所得税と住民税の概算は以下の通りです。
【扶養控除が縮小しない場合】
- 所得税:約13万4500円
- 住民税:約24万7000円
- 合計:約38万1500円
【扶養控除が縮小した場合】
- 所得税:約14万7500円
- 住民税:約26万円
- 合計:約40万7500円
扶養控除が引き下げられた場合、所得税と住民税の負担は、年間約2万6000円増加することになります。
児童手当が12万円(1万円×12ヵ月)支給されると、実質9万4000円(月約7,800円)のプラスになります。
年収800万円の世帯
年収800万円の世帯の場合、所得税と住民税の概算は以下の通りです。
【扶養控除が縮小しない場合】
- 所得税:約54万4500円
- 住民税:約50万3500円
- 合計:約104万8000円
【扶養控除が縮小した場合】
- 所得税:約57万500円
- 住民税:約51万4000円
- 合計:108万4500円
扶養控除が引き下げられた場合、所得税と住民税の負担は、約4万円増加することになります。
児童手当が12万円(1万円×12ヵ月)支給された場合、実質約8万円(月約6,700円)のプラスとなります。
このように、扶養控除が減額されると、年収が高いほど児童手当の恩恵が少なくなります。
扶養控除がどうなるのか、引き続き、注目が集まります。
あわせて読みたい
高校でかかる学費については、『公立高校3年間でかかる学費は?私立との違いや母子家庭が利用できる制度を紹介』で詳しく解説しています。