政府が打ち出した「異次元の少子化対策」を議論するなかで「N分N乗方式」が注目されています。
N分N乗法式とは、フランスで採用されている税制度です。
N分N乗法式を採用しているフランスでは、合計特殊出生率(※)が1.83とEUで最も高くなっています。(※15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)
N分N乗方式は、日本の少子化対策になりえるのでしょうか。
この記事では、N分N乗法式の考え方や、導入された場合の効果について解説します。
「N分N乗方式」で税金が安くなるかもしれない。低所得世帯や片親世帯は不利になる可能性も
【記事執筆】FP川辺 拓也
3,000人を超える顧客からの相談実績をもとに、社会保障制度や家計に必要な金融知識を分かりやすく提供。2級ファイナンシャルプランニング技能士。金融全般から、お金に関する政策まで幅広く専門領域があり、複数の金融メディアに多数寄稿。
N分N乗方式の仕組み
日本の税制度は、各個人の収入に対して課税される仕組みです。
一方、N分N乗法式は、世帯の合計所得に対して課税する仕組みです。
具体的な事例で、どのように課税されるかを確認してみましょう。
<ケース1>
- 夫婦と子ども2人の4人家族
- 共働き
- 課税所得:夫/550万円、妻/200万円
日本の税制では個人ごとに課税されるので、所得税額の世帯合計は77万7500円となります。
一方、N分N乗法式では、夫婦の課税所得を合算して世帯の構成人数で割ります。(ここでは、フランスでの計算方法をもとに、子どもを0.5人とします)
世帯の課税所得の合計は750万円なので、1人あたりの課税所得は250万円(750万円÷3)となります。
世帯の構成員1人あたりの所得税額は、15万2500円(250万円×10%-9万7500円)となります。
したがって、所得税額の世帯合計は45万7500円(15万2500円×3)です。
所得税額の計算方法が異なるので単純に比較はできませんが、N分N乗方式では日本の課税方式と比べ、所得税額が32万円軽減されます。
また、世帯収入が同じ場合、共働き世帯よりも片働き世帯の方が軽減効果を期待できます。
<ケース2>
- 夫婦と子ども2人の4人家族
- 片働き
- 課税所得:夫/750万円
N分N乗法式による所得税額の世帯合計は45万7500円なので、片働きの場合63万1500円負担が軽減されることになります。
N分N乗法式の懸念事項
先ほどの事例で確認したとおり、N分N乗方式は課税所得が高く、世帯人数が多くなるほど効果が大きくなる制度です。
一方、以下の世帯では十分な効果が得られない可能性があります。
- ひとり親世帯
- 課税所得が低い世帯
N分N乗方式が少子化問題の解決策として注目されていますが、根本的な解決に結びつくかは、他の制度や政策と合わせて、総合的に検証する必要があります。
政府は「導入に慎重な姿勢で臨む」としていますが、N分N乗方式が導入されるのか、今後の議論に注目が集まります。