厚生労働省は、2023年4月以降の年金受給額の見通しを発表しました。
67歳以下の場合、国民年金(1人分)の月額は6万6250円、厚生年金(会社員の夫と専業主婦)の月額は22万4482円になる見通しです。
2022年度と比較すると、国民年金(1人分)は1,434円、厚生年金は4,889円増加しています。
額面上は増額していますが、物価や賃金の上昇率との関係を加味すると、実質的には減少する点に注意する必要があります。
この記事では、年金受給額を決める仕組みと、2023年の年金受給額が実質的に減少する理由を解説します。
2023年度の年金額、3年ぶりに増額も実質目減り。物価の上昇率に年金額の伸び率が追いついていないという現状
年金受給額を決める仕組み
そもそも、なぜ年金受給額は毎年変動するのでしょうか。
年金の受給金額は、物価や賃金の変動に応じて改定を行う仕組みです。
しかし、物価や賃金の上昇率と同じ水準で受給額が増え続けると、将来世代の保険料負担が重くなるリスクがあります。
そこで、2004年から「マクロ経済スライド」という仕組みが採用されました。
出典:厚生労働省「厚生労働省 いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~」(以下同)
「マクロ経済スライド」によって、現役世代の人口や平均余命の伸びを加味し、年金の給付水準を自動的に調整しています。
物価や賃金が上昇したとしても、年金額の伸び率を調整する(物価や賃金の上昇ほど増やさない)ことによって、財源の範囲内で受給を行っています。
□マクロ経済スライドの仕組み
厚生労働省は、2022年の物価上昇率と賃金上昇率から、2023年4月以降に給付する年金額の伸び率を試算しました。
67歳以下は、改定率に賃金変動率が用いられて、68歳以上は物価変動率が用いられます。
- 67歳以下:前年度改定率×名目手取り賃金変動率×マクロ経済スライド調整率
- 68歳以上:前年度改定率×物価変動率×マクロ経済スライド調整率
物価上昇率を「2.5%」、賃金上昇率を「2.8%」とすると、年金額の伸び率は67歳以下が「1.9%プラス」、68歳以上が「2.2%プラス」となります。
物価と賃金はそれぞれ上昇しましたが、マクロ経済スライドによる自動調整が行われ、年金受給額の伸び率はそれぞれ「0.6%」抑えられることになります。
2023年度の年金額は実質目減り
年金受給額の推移を見ると、下表に示す通り増減を繰り返しています。
2020年度以降、減少が続いていた年金受給額が3年ぶりに前年を上回る見通しとなります。
しかし、マクロ経済スライドによる調整で、年金額の伸び率は0.6%抑えられています。
額面では前年を上回っていますが、受給額の上昇率が物価や賃金の上昇率を下回っているため、実質的には0.6%減少していることになります。
物価上昇は2023年も継続する見通しです。
年金受給額の金額は上がりますが、実質的には減少になることをおさえておきましょう。
なお、正式な年金額は2023年1月に確定する見通しです。
- 厚生労働省「厚生労働省 いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~」
- 日本年金機構「年金額はどのようなルールで改定されるのですか。」