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iDeCo(個人型確定拠出年金)の年末調整でいくら戻る?書き方と還付金の計算方法

執筆者:佐藤 憲亮

【記事執筆】税理士佐藤 憲亮

「お客様との対話を大事に」をモットーに、気軽に相談できる専門家として税務顧問業務をメインに活動。税務記事や税務論文の執筆もおこなっている、書くことが好きな税理士。税理士事務所で12年の実務経験を積み、2020年に税理士登録。

人生100年といわれる時代、平均寿命は女性87歳、男性81歳まで延びています。しかし、長寿化が進むと老後資金のことも考えないといけません。年金受給額の減少や、物価高騰の影響もあり、年金のみで老後の生活を維持することは非常に困難です。

老後資金を自身で積み立てていく方法として、iDeCo(個人型確定拠出年金)などの税制優遇制度の活用がおすすめです。しかし、「iDeCoをはじめたものの、年末調整の書き方がわからない」「還付金の計算方法が知りたい」という人もいるのではないでしょうか。

iDeCoは年末調整で申告を行うことにより、所得税の控除を受けられます

この記事では、iDeCoの仕組みやメリット、年末調整における申告方法について解説します。

この記事でわかること
  • iDeCoの概要
  • 年末調整の書き方
  • 還付金の計算方法
  • 年末調整に間に合わなかったときの対処法

iDeCoとは

iDeCoは積み立てる金額や運用方法を自分で決めることができる私的年金制度で、個人型確定拠出年金の別名です。iDeCoへの加入は任意で、掛金の拠出や運用はすべて自分で行います。

iDeCoの仕組みと特徴

iDeCoは、20~65歳の国民年金加入者または厚生年金加入者であれば加入することができます。iDeCoの積立可能額(拠出限度額)は、個人の年金制度加入状況により異なります(下表)。

iDeCoの拠出限度額
区分 加入資格 月額上限 年額上限
第1号被保険者 自営業者・フリーランス 6万8000円 81万6000円
第2号被保険者 会社に企業年金がないサラリーマン 2万3000円 27万6000円
企業型DC(※1)のみ加入のサラリーマン 2万円 24万円
企業型DCとDB(※2)に加入のサラリーマン 1万2000円
(R5.12から上限2万円に)
14万4000円(24万円)
DBのみ加入のサラリーマン公務員等 1万2000円 14万4000円
第3号被保険者 専業主婦等 2万3000円 27万6000円
※1 確定拠出年金、企業型と個人型(iDeCo)がある。企業型は掛金を企業が支払い、運用は個人が行う。
※2 確定給付型年金、企業が掛金支払と運用を行い、従業員は運用状況を確認できる。

上限額までであれば最低月5,000円から千円単位で設定することができます。しかし、積立金は原則60歳まで取り崩すことができないため、生活に支障がない範囲で積み立てていくことが重要です。

積み立てたお金は、定期預金、保険、投資信託などで運用することになり、運用成績により将来受け取れる金額が変動します。運用商品は多岐にわたり、リスクが低い商品であれば運用益は小さく、リスクが高い商品は運用益が大きくなる傾向にあります。

運用資金の受け取り時期は、60~75歳の期間で選択が可能です。また、受け取り方も年金方式で分割して受け取るのか、一括で退職金として受け取るのかを選択することができます。自身の手元資金が不足しないように、資金状況に合った方法を選択しましょう。

iDeCoの税制優遇メリット

iDeCoを活用することで、「積立時」「運用時」「受取時」にそれぞれ税制優遇制度の適用を受けることができます。

【積立時】積立金は全額所得控除

積み立てた金額は「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、全額その年の所得控除となります。年末調整で所得控除の適用を受けることで、その年の所得税と住民税の負担を軽減することができます。

iDeCoは原則60歳まで引き出すことはできませんが、老後資金を積み立てながら現在の税負担を軽減できる点がメリットの1つです。ただし、積立額を多くしすぎて資金が不足しないよう、余裕資金で積み立てするようにしましょう。

【運用時】運用益は非課税

積み立て(投資)先は自身で選択することができ、投資成績により運用益を得ることができます。運用により得た利益を再度投資に回すことで、複利効果を得ながら積立額を増やし、老後資金を増やしていくことができます。

通常、投資に対する運用益が確定したときは、その利益に対して合計20.315%の所得税と住民税が課されます。一方、iDeCoに積み立てることにより出た利益については、すべて非課税扱いとなり、運用により得た所得に対する税負担はありません

【受取時】税負担軽減

60歳以降であれば、iDeCoを解約し、積み立ててきた資金を受け取ることができます。受け取り方は、以下の3種類から選択することができます。

  • 年金として分割で受け取る
  • 一時金として一括で受け取る
  • 両方を併用して受け取る

年金として受け取る場合は「公的年金等控除」が適用され、公的年金と合算し65歳未満であれば年間60万円、65歳以上であれば年間110万円が控除されます。

また、一時金として受け取る場合は「退職所得控除」が適用され、iDeCo加入から20年目までは年間40万円、21年目からは年間70万円の控除が受けられます。例えば30年間iDeCoに加入して解約する場合は、「40万円×20年+70万円×10年=1500万円」の控除を受けることができます。

このように、iDeCoでは入口部分、運用部分、出口部分の3つで税制優遇制度を受けることができます。老後資金を積み立てるにはとても優れた制度といえるでしょう。

年末調整とは

サラリーマンは毎月会社から給与を支給される際に一定の所得税が控除されています。この徴収額は前年の扶養状況と給与から控除した社会保険料のみを考慮した金額であり、iDeCoの掛金支払い状況などは考慮されていません。

そのため、毎年12月頃に年間の所得を確定するために、会社が各人の扶養状況、社会保険、生命保険、地震保険、iDeCo、住宅ローン控除等の支払い状況を確認し、所得を確定するために年末調整を行います。

年末調整の結果、確定した所得税よりも給与から控除された所得税が多かった場合は、所得税が還付されます。一方、確定した所得税よりも給与から控除された所得税が少なかった場合は、追加で所得税が徴収されることとなります。

年末調整と確定申告の違い

年末調整は主たる給与を受給している会社で行うことになります。一方、確定申告は、毎年2月16日~3月15日の間に、自身で申告をする必要があります。

通常、会社員の場合、会社が実施する年末調整で完了しますが、以下の場合、確定申告が必要になります。

  • 主たる会社の給与以外にも給与収入や所得がある場合
  • 医療費控除を受ける場合
  • 寄付金控除を受ける場合
  • 住宅ローン控除の適用をはじめて受ける場合

iDeCoの年末調整の手続きと書き方

年末調整に必要な資料

年末調整においてiDeCoにかかる控除(小規模企業共済等掛金控除)の適用を受けるには、金融機関から郵送される「払込証明書(小規模企業共済等掛金払込証明書)」を準備します。

保険料控除申告書の書き方

iDeCoの払込証明書に記載された「掛金合計額」を、「給与所得者の保険料控除申告書」の右下にある「小規模企業共済等掛金控除」の「確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金」欄に、転記します。

給与所得者の保険料控除申告書
出典:国税庁「給与所得者の保険料控除申告書」

iDeCoの年末調整の書き方は以上です。その他、生命保険料控除などを受ける場合は、同申告書に必要事項を記入し、会社に提出すれば完了です。

iDeCoの年末調整でいくら戻るのか(計算方法とシミュレーション)

iDeCoに加入することで税負担はどのようになるのでしょうか。ここでは、下記の条件で、税負担額のシミュレーションをしていきます。

条件

35歳サラリーマン、共働き(配偶者扶養外)、子1人(5歳)、自宅は賃貸

年収600万円、800万円の2パターンでiDeCoに加入した場合、未加入の場合の税負担を比較します。配偶者は共働きのため扶養外とし、iDeCoは第2号被保険者(会社に企業年金がない)で上限額を払い込んでいるものとします。また、下表には、所得税は年税額と毎月の給与から差し引かれる源泉徴収税額を記載し、年末調整により還付される予想金額を記載します。

区分 科目 年収600万円 年収800万円 備考
iDeCo未加入 iDeCo加入 iDeCo未加入 iDeCo加入
収入 給与収入 600万円 600万円 800万円 800万円  
所得金額 436万円 436万円 610万円 610万円  
所得控除 社会保険料控除 84万7000円 84万7000円 110万2000円 110万2000円  
小規模企業共済掛金控除 0 27万6000円 0 27万6000円 iDeCo年額上限27万6000円
生命保険料控除 12万円 12万円 12万円 12万円  
基礎控除 48万円 48万円 48万円 48万円  
144万7000円 172万3000円 170万2000円 197万8000円  
差引課税所得 291万3000円 263万7000円 439万8000円 412万2000円  
所得税 ①年税額 19万8000円 17万円 46万2000円 40万5000円 復興特別所得税2.1%加算
②源泉徴収税額 22万8000円 22万8000円 50万6000円 50万6000円  
③年末調整還付金額 -3万円 -5万8000円 -4万4000円 -10万1000円 ③=①-②
住民税 29万1000円 26万3000円 43万9000円 41万2000円 おおよそ所得×10%
ここでは簡便的に所得税の課税所得を基礎とします
税額合計 48万9000円 43万3000円 90万1000円 81万7000円 所得税+住民税
軽減税額 5万6000円 8万4000円  

iDeCo加入時と未加入時を比較した結果、年収600万円は5万6000円、年収800万円は8万4000円の税負担軽減が受けられることがわかりました。

なお、年収が毎年同額という前提になりますが、iDeCoを60歳まで毎年上限まで払い込んだ場合(35~60歳の25年)、年収600万円は140万円、年収800万円は210万円の税負担軽減が受けられることになります。

年末調整が間に合わない場合の対処法

iDeCoにかかる所得控除を年末調整で受けなかった場合は、確定申告でその適用を受けることができます。

確定申告をする場合の申告書の書き方

iDeCoの払込証明書に記載されている金額等を、確定申告書第二表の右上「小規模企業共済等掛金控除」の欄に記入します。

所得税等の確定申告書
出典:国税庁「所得税等の確定申告書」(以下同)

次に確定申告書第一表の「所得から差し引かれる金額」の「小規模企業共済等掛金控除」欄に、第二表で集計した金額を転記します。

小規模企業共済等掛金控除」

確定申告でiDeCoの申告をする場合は、iDeCo以外にも給与所得やその他の所得控除等を記入する必要があるため、年末調整と比べると申告書作成が煩雑になります。

申告書を作成する場合は、データを入力するだけで申告書作成が完了する、国税庁の「確定申告書作成コーナー」を活用することをおすすめします。

iDeCoの年末調整の注意点とよくある質問

  • 払込証明書を紛失した場合はどうしたらよいですか?

    iDeCoの所得控除を受ける場合は、払込証明書が必要です。万が一紛失した場合は、金融機関で払込証明書の再発行手続きを行ってください。

    払込証明書の再発行には時間がかかる場合もあるため、紛失しないように保管しておきましょう。

  • iDeCoの所得控除の種類は何ですか?

    iDeCoの所得控除の種類は「小規模企業共済等掛金控除」です。年末調整資料への記入を間違えないように気を付けましょう。

  • 年末調整でiDeCoの申告を忘れた場合はどうしたらよいですか?

    年末調整時にiDeCoの申告を忘れた場合は、会社に申し出ることで、会社で年末調整をやり直してもらえる場合があります。期日を過ぎてしまい、年末調整で対応ができなかった場合は、確定申告で控除を受けるようにしましょう。

まとめ

iDeCoは掛金を支払ったとき、運用益が出たとき、解約金を受け取ったときの3つの税制優遇措置があります。掛金を支払ったときの税制優遇は、年末調整で申告することで控除を受けることができます。

年末調整資料に必要事項を記入し、払込証明書を添付することで控除の適用を受けることができます。自宅に届いた払込証明書を紛失しないよう注意してください。

iDeCoは、単年で見ると節税効果は薄いですが、長く続けることにより、老後資金を貯めながら大きな節税をすることができます。ただし、解約は原則60歳以上となるので、積立は余裕資金でするように計画性をもって実行するようにしましょう。

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