人生100年時代が現実的になり、長生きする人が増えた一方で、老後の生活資金不足で苦しむ人も少なくありません。
リタイアはずっと先でも、今後、子育てやマイホーム購入などのライフイベントの出費を考えると、老後の生活資金を蓄えることは難しそう……と、お悩みの若い方も多いはず。
そのような中で、老後資金形成のための「iDeCo(イデコ)」という制度を耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないしょうか。
この記事ではiDeCoについてほとんど知らない方が、制度を理解し、始めるかどうかを自分で判断できるように、iDeCoのメリット・デメリットや実際に運用するときの流れ、始めるときに押さえておきたいポイントなどをご紹介します。
iDeCo(イデコ)とは?メリット・デメリットや運用方法を解説

iDeCo(イデコ)とは?
iDeCo(イデコ)とはどういった制度なのでしょうか?まずは、制度の概要や基本的なルールをご紹介します。
任意で加入する私的な年金制度
iDeCoとは、国内に居住する全員が加入しなければいけない国民年金などの公的年金制度に対して、任意で加入する私的な年金制度の一つです。月々決まった金額を積み立て、その積立金で運用した資産を60歳以降に年金や一時金として受け取ります。
iDeCoは正式には個人型確定拠出年金と言い、国民年金や厚生年金などの公的年金に上乗せして受け取れる年金です。3階建て構造の日本の年金制度の中では、1階に国民年金、2階に厚生年金、3階に企業年金や私的年金という構造になっており、iDeCoはこの3階部分に位置します。

iDeCoは、日本に住む20歳以上60歳未満の方であれば、誰でも、いつからでも始められる年金制度です(国民年金保険料の免除者・未納者は加入できません)。
公的年金は職業などによって加入が義務付けられており、保険料や給付額は国民年金の場合は一律で、厚生年金の場合は収入額に応じて決まっています。一方でiDeCoは、加入するタイミングや毎月の掛金の金額などを一定の条件の範囲内で加入者本人が決められます。また、掛金で購入する金融商品を自分で選び、その運用実績によって受け取る年金を増やせる点も公的年金と性質が異なります。
iDeCoの基本ルール
iDeCoは運用が加入者本人に任せられており、公的年金と比べると自由度が高い制度と言えますが、運用上のルールは存在します。以下では、掛金の金額や運用できる商品のルールについて詳しく説明します。
掛金は1ヶ月あたり5,000円から
iDeCoは1ヶ月あたりの掛金の最低額と上限額が決まっており、最低額は一律5,000円で、上限額は国民年金の被保険者資格ごとに定められています。国民年金の被保険者資格は3つに分類され、第1号は自営業や学生等、第2号は会社員や公務員(厚生年金加入者)、第3号は専業主婦・専業主夫(第2号被保険者に扶養されている配偶者)が該当します。第2号被保険者については、職業と企業年金の加入状況によりさらに細かく上限金額が定められています。
以下は、iDeCoに掛けられる1ヶ月あたりの掛金上限金額の対応表です。
国民年金の被保険者資格 | 職業・企業年金の加入状況 | 1ヶ月の上限金額 |
---|---|---|
第1号被保険者 | 自営業・学生等 | 68,000円* |
第2号被保険者 | 会社員(確定給付型・拠出型いずれの企業年金にも加入していない) | 23,000円 |
会社員(企業型確定拠出年金のみ加入) | 20,000円 | |
会社員(確定給付型企業年金に加入) | 12,000円 | |
公務員・私立学校教員 | 12,000円 | |
第3号被保険者 | 専業主婦・専業主夫 | 23,000円 |
※国民年金基金加入者は基金の掛金と合わせた金額
掛金の最低額と上限額は分かりましたが、現在加入している人はいったいいくら掛けているのでしょうか?以下で、iDeCo加入者の約8割を占める会社員・公務員(第2号被保険者)の1ヶ月あたりの掛金分布を年代別にグラフにしました。

出典:国民年金基金連合会(iDeCo公式サイト)|業務状況|制度の概況|国民年金基金連合会「iDeCo(個人型確定拠出年金)の制度の概況」|7.年齢階層別掛金額別現存加入者数(第2号・3号加入者定額払い)より作成
年代別に見てみると、20代~40代の約半数が1ヶ月あたりの掛金を1万円~1万4,000円に設定していることが分かります。そして、年代が上がるにつれて、掛金を15,000円以上に設定する割合が増えています。一般的には年齢を重ねるごとに収入も増えるため、年齢に応じて掛金も増えていく傾向が見られます。
商品は3つの種類がある
iDeCoで運用できる代表的な商品は、定期預金・保険・投資信託の3つが挙げられます。これらは以下の表のように、元本確保型と価格変動型に分類されます。
元本確保型 | 価格変動型 | |
---|---|---|
商品 | 定期預金、保険 | 投資信託 |
リスクとリターン |
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定期預金と保険は元本確保型商品と言われ、運用による元本割れのリスクがない(手数料などを考慮すると実質的に元本割れすることがある)ものの、利益があまり期待できません。なお元本割れとは、積立金が掛金の合計よりも少なくなってしまうことです。
一方で、価格変動型の商品である投資信託は元本割れのリスクがある分、運用がうまくいけば利益を出して資産増を期待できます。利回りはあまり気にせず、資産を安全に残したい場合は元本確保商品を、ある程度リスクを取った上で資産を増やしたい場合は投資信託を選ぶのが一般的です。
投資信託は商品によって、運用対象とする株式や債券などの組み合わせが異なり、ハイリスク・ハイリターンからローリスク・ローリターンのものまで揃っています。投資信託の商品タイプについて詳しくは「掛金と運用商品の配分を考える」で説明します。ちなみにiDeCoでは、個別株や個別債券は運用商品の対象外となっています。
iDeCoの積み立てシミュレーション
iDeCoで掛金を積み立てた場合、積立金額はどのように増えていくのでしょうか?ここでは、1年あたりの利率が1%、3%、5%の商品に毎月1万円ずつ投資し、30年間運用する場合の積立シミュレーションを行ってみました。

仮に30年間利率が同じ商品に対して投資し続けられたとしたら、積立開始から30年後の資産評価額*は投資元本360万円に対して、年利1%で約420万円、3%で約583万円、5%で約832万円と算出できます。
グラフでは、積立開始10年目を過ぎたあたりから元本との差額が開き始めています。投資期間が数年といった短期間では運用益はわずかに感じるかもしれませんが、このように長期運用することで複利効果の恩恵を受け、運用益は時間とともに大きくなっていきます。
※手数料などの運用コストは考慮していません
ただし、iDeCoを投資信託で運用する場合、投資対象の株式や債券の価格が日々変動しますので、実際には資産評価額に波が生まれます。以下は、iDeCOで30年間投資を続けて最終的な資産評価額が832万円に到達した場合のイメージ図です。30年目の金額は年利5%のシミュレーション金額ですが、実際はこの図のように上下動を繰り返しながらこの金額に到達し、結果的に「年利5%で運用できた」ということになります。

ちなみに、一定額ずつ定期的に投資商品を購入する積立投資は、まとまった金額を一時期に投資する一括投資よりもリスクを減らせると言われています。iDeCoも一定額ずつ定期的に投資商品を購入する積立投資に該当します。
<コラム>iDeCoとNISAの違いは?
NISA(ニーサ)とは、正式には少額投資非課税制度と言い、年間120万円までの投資で得た運用益や配当金・分配金が5年間は非課税になる制度で、個人投資家のための税制優遇制度です。年金制度の一つであるiDeCoとはそもそも制度のカテゴリが異なりますが、投資の運用益に対して節税効果がある点で共通しているため、混同する人も多いようです。
一般的に、iDeCoは老後の生活資金のために、NISAは老後資金以外にも住宅購入や子どもの教育費などのライフイベントに向けた資金準備のために利用されます。iDeCoとNISAの相違点はたくさんありますが、押さえておきたいポイントを表にまとめましたので、気になる方は確認してください。
なお、NISAには上記で解説した「一般NISA」、少額から分散投資ができる「つみたてNISA」、未成年者を対象とした「ジュニアNISA」と3種類に分けられています。しかし、一般NISAとつみたてNISAは併用できない、ジュニアNISAは未成年者が18歳になるまで引き出せないなど、それぞれ制度の内容が異なります。
【つみたてNISA】
- 投資した資産はいつでも引き出せる
- 投資の上限額は年間40万円
- 非課税期間は最長20年
- 対象商品は国が指定する投資信託
iDeCo(個人型確定拠出年金) | iDeCo(個人型確定拠出年金) | NISA(少額投資非課税制度) | NISA(少額投資非課税制度) | |
---|---|---|---|---|
制度のカテゴリ | 年金制度 | 投資における非課税制度 | ||
利用目的の例 | 老後の生活資金 | ライフイベントに備える資金 (住宅購入や子どもの教育費など) | ||
共通点 | 制度を利用して出た運用益が非課税になり、節税効果がある | |||
相違点 (引き出しのタイミング・投資上限額・運用期間・運用商品・税制) |
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一般NISA |
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ジュニアNISA |
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- ジュニアNISAは2024年6月1日以降、引き出し制限がなくなる
iDeCoのメリット・デメリット
iDeCoの概要や基本的なルールが分かったところで、実際に始めるかどうかを検討するためには、メリットやデメリットが気になるところです。まずはメリットから解説していきましょう。
税制優遇のメリット
iDeCoを利用すると税制優遇が適用されるので、節税効果が期待できます。節税効果は以下の3つ。それぞれ順番に見ていきましょう。
■掛金が全額所得控除の対象になる
所得税や住民税の金額は、収入から一定の金額を差し引いた「課税所得」を元に計算されます。この差し引く項目の一つが「所得控除」で、養っている配偶者がいれば配偶者控除、養っている親や子どもがいれば扶養控除、一定額以上の医療費がかかったら医療費控除、生命保険料を払ったときの生命保険料控除など、いくつかあります。
この所得控除の一つに小規模企業共済等掛金控除というものがあり、iDeCoの掛金の全額が対象になります。言い方を変えれば、iDeCoの掛金は全額が課税対象額から除外され、結果的に所得税と住民税が安くなるということです。
どれくらい安くなるかですが、税金は課税所得に税率を掛けて算出されますので、課税所得が少なくなった分、つまり1年間のiDeCo掛金合計額に所得税+住民税の税率を掛けた金額が節税できるおおよその金額となります。現在、住民税の所得割は全国ほとんどの自治体で10%となっていますので、所得税率が10%の方は住民税と合わせて20%、所得税率が20%の方は30%を掛金に乗じた額が目安です。
たとえば、月々1万円、年間で12万円をiDeCoの掛金として支払った場合で具体的な金額を見てみましょう。
- 所得税率10%の方の節税額=12万円×(10%+10%)=2万4,000円
- 所得税率20%の方の節税額=12万円×(20%+10%)=3万6,000円
仮にこの条件で30年積立を続けた場合、累計で72万円あるいは108万円の節税効果が見込めます。
以下は、年収や所得控除を具体的に設定した、詳細なシミュレーションです。ご興味のある方は確認してみてください。
<シミュレーションの条件>
月々の掛金:1万円(年間12万円)
年収:500万円
※給与所得控除と基礎控除は、所得税では令和2年分以降、住民税では令和3年分以降の額で計算。
※記載した所得控除以外の控除は無いものとします。
※復興特別税は考慮していません。
※住民税の調整控除は考慮していません。
※あくまで簡易的なシミュレーションのため、実際の税額は下記計算とは異なることがあります。
<所得税>
●課税所得の計算式
所得税を算出するための課税所得は、iDeCoに加入した場合、以下の式で算出されます。
年収-給与所得控除-社会保険料控除-小規模企業共済等掛金控除-基礎控除
※年収500万円の場合の給与所得控除=年収×20%+44万円=144万円
※社会保険料控除(年収の14.22%で計算)=年収×14.22%=71万1,000円
※小規模企業共済等掛金控除=年間掛金=12万円
※基礎控除=48万円
500万-144万-71万1,000-12万-48万=224万9,000(円)
(iDeCoに未加入の場合)
年収-給与所得控除-社会保険料控除-基礎控除
500万-144万-71万1,000-48万=236万9,000(円)
●所得税の計算式
iDeCoに加入・未加入両方とも課税所得が「195万円超~330万円」に該当するため、所得税率は10%です。
課税所得×所得税率-控除額
※課税所得195万円超~330万円の場合の所得税額=課税所得×10%-9万7,500円
224万9,000×10%-9万7,500=12万7,400(円)
(iDeCoに未加入の場合)
課税所得×所得税率-控除額
236万9,000×10%-9万7,500=13万9,400(円
)●iDeCo加入時と未加入時の所得税額の比較
12万7,400-13万9,400=-1万2,000(円)
iDeCo加入時の所得税は12万7,400円に、未加入時は13万9,400円となり、1年あたりの所得税の節税額は1万2,000円となります。これは年間掛金12万円の10%にあたる金額で、このケースの所得税率10%と一致しています。
<住民税>
●課税所得の計算式
住民税は、前年の所得額に応じて決まる「所得割」と一律に定額で課税される「均等割」に分かれていますが、節税に関係するのは所得割になります。所得割を算出するための課税所得は、iDeCoに加入した場合、以下の式で算出されます。
年収-給与所得控除-社会保険料控除-小規模企業共済等掛金控除-基礎控除
※給与所得控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除は所得税計算と同じ金額
※基礎控除=43万円
500万-144万-71万1,000-12万-43万=229万9,000(円)
(iDeCoに未加入の場合)
年収-給与所得控除-社会保険料控除-基礎控除
500万-144万-71万1,000-43万=241万9,000(円)
●住民税(所得割)の計算式
住民税率はほとんどの自治体で一律10%となっており、所得税のように課税所得金額に応じた税率の変化はありません。
課税所得×住民税率
229万9,000×10%=22万9,900(円)
●(iDeCoに未加入の場合)
課税所得×所得税率
241万9,000×10%=24万1,900(円)
●iDeCo加入時と未加入時の住民税額(所得割)の比較
22万9,900-24万1,900=-1万2,000(円)
所得税と同じく、こちらでも1年あたりの節税額は1万2,000円となりました。これは、やはり年間掛金12万円の10%にあたる金額で、住民税率10%と一致しています。
<所得税と住民税の差額合計>
所得税の節税額1万2,000円と住民税の節税額1万2,000円を合計すると、1年あたり2万4,000円の節税になります。つまり、iDeCoの年間掛金額に対して所得税率と住民税率を合わせた20%の節税効果があると言えます。
参照サイト:国税庁|No.1410 給与所得控除、No.1100?所得控除のあらまし、No.2260?所得税の税率
■運用益に税金がかからない
金融商品の運用益は課税対象となり20.315%の税金が課せられますが、iDeCoを利用した場合に得られる運用益には税金がかかりません。iDeCoの性質上、60歳以降の受け取り時まで運用益が非課税になるメリットを実感しづらいかもしれませんが、実は資産を増やす上でとても有利な条件と言えます。
投資信託の中には運用による収益を「分配金」という形で還元するタイプがありますが、iDeCoで投資したときには、分配金は非課税で同じ商品の元本に組み入れられます。この場合、非課税分の利益が新たな利益を生み、長期的に見ると雪だるま式に資産が増える複利効果が得られます。運用益が非課税になるメリットは、利益の全額をそのまま新たな再投資に回し、複利効果を最大化できることです。

■受給時に所得控除の対象になる
iDeCoは、積立金を受け取るときには課税対象となりますが、同時に所得控除が適用されるので税負担が軽減されます。積立金の受け取り方は年金形式と一時金形式、あるいは両形式の併用(金融機関によります)で、それぞれ税制優遇の方式が異なります。
受け取り方法 | 年金形式 | 一時金形式 |
---|---|---|
所得の種類 | 雑所得 | 退職所得 |
所得控除の種類 | 公的年金等控除 | 退職所得控除 |
税務上の取り扱い | 国民年金、厚生年金と合算される | 退職金と合算される |
非課税上限額 |
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|
- 1 公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円以下の場合
- 2 年数は切り上げ、退職金と合算した場合は、勤続年数と掛金積立年数の多いほうを適用
上記のように、年金形式と一時金形式のどちらで受け取る場合にも所得控除が適用されます。ただし、控除額を算出する方法が異なるため、年齢や公的年金の加入状況、退職金の有無などの受け取り時の条件によって非課税枠が変動します。税制優遇以外のメリットここまで、iDeCoの税制優遇のメリットをご紹介しましたが、税制優遇のほかにも以下のメリットがあります。
■積立金が分別管理されている
iDeCoの税制優遇以外のメリットとして、積立金が分別管理されることが挙げられます。この点は公的年金と大きく違う点です。
分別管理になっているため、ほかのiDeCo加入者が運用に失敗しても自分の資産には影響がありません。公的年金や企業年金の場合、国や企業が加入者から保険料や掛金を徴収し、そのお金をまとめて運用することで年金の原資を増やします。
そのため、運用が失敗した場合は給付額が減ったり、給付水準を維持するために保険料が増額されたりする可能性があります。
■ポータビリティ制度が利用できる
iDeCoから転職先の企業型確定拠出年金に、あるいは退職時に加入していた企業型確定拠出年金からiDeCoに積立金を持ち運べるポータビリティ制度を利用できる点もメリットと言えます。
iDeCoから企業型、あるいはその逆に制度が変わっても加入年数が引き継がれますので、特に積立金を一時金形式で受け取る場合は、加入年数が退職所得控除額に影響するため、ポータビリティ制度が認められていると税制上大きなメリットとなります。
確定拠出年金以外の企業年金の中にもポータビリティ制度が適用されるケースがありますが、適用できる条件が定められており、仮に現在の会社で条件をクリアしても転職先のルールによっては持ち運びが認められないケースがあります。
■運用成功時に資産が増加する
iDeCoは、運用が成功すれば積立金が増えるというメリットがあります。運用する商品が元本確保型の定期預金や保険の場合は資産増加をあまり期待できませんが、投資信託の場合は運用状況によっては積立金を大きく増やせる可能性があります。
デメリットiDeCoにはメリットもあれば、デメリットもあります。ここでは、iDeCo利用前に確認しておきたい3つのポイントをご紹介します。
■元本割れのリスクがある
iDeCoを投資信託で運用する場合、積立金が増える可能性がある反面、運用がうまくいかず元本割れになるリスクがあります。
元本割れを避けたい場合は、元本確保型の定期預金や保険商品を選択するのが良いでしょう。ただし、低金利時代における定期預金は、利息よりも手数料が上回る手数料負けになる可能性があります。
また保険商品も、解約時の金利動向によっては解約手数料が発生して運用益を帳消しにしてしまう場合があります。従って、どの商品を選ぶ場合も元本割れのリスクがあると覚えておきましょう。
■60歳まで引き出せない
iDeCoの積立金は、加入者が死亡したときの遺族年金、もしくは障害状態になったときの障害年金を受給する場合以外は、原則60歳になるまで引き出せません。
また、途中で脱退するためには厳格な条件をクリアする必要があり、ほとんどのケースで脱退できないと言えるでしょう。そのため、いざお金が必要になったときに不便に感じる場合があります。
しかし、iDeCoの目的は老後の資産形成であるため、引き出しの年齢制限は当然のルールとも言えます。
■加入時・積立時・受給時に手数料がかかる
iDeCoを利用するうえでは、加入時・積立時・受給時の各タイミングで手数料がかかります。以下の表は、支払先機関とタイミング別の手数料一覧です。
加入時 | 積立時 | 受給時 | |
---|---|---|---|
国民年金基金連合会 | 2,829円 | 1回あたり105円 | なし |
窓口金融機関 | ほとんどの金融機関でなし | 金融機関により異なる(なしの金融機関も) | 金融機関により異なる |
信託銀行 | なし | 1年あたり792円 | 1回あたり440円 |
手数料は、iDeCo加入時に約3,000円、積立時に1年あたり約2,000円、受給時に1回あたり約500円が徴収されます。
なお、企業型確定拠出年金の場合は、このうち加入時と積立時の手数料は会社が負担してくれますので、すべてのタイミングで手数料がかかるのはiDeCoのデメリットと言えるでしょう。
手数料は掛金や積立金から差し引かれ、それぞれの機関に対して自動的に支払われます。手数料のうち、窓口金融機関への手数料は各金融機関によって異なるので、加入前に必ず確認するようにしましょう。
iDeCoの運用の流れは?ここまで、iDeCoの基本ルールやメリット・デメリットについて見てきましたが、実際iDeCoを運用する場合、どのような流れで進めていくのでしょうか?
最後に、申込みから受給までの流れや、申込み前に準備しておきたいポイントについて解説します。申込み~受給までの4つのステップiDeCoへの申込みから年金を受給するまで、以下の4つの段階を踏んで進みます。
- 【ステップ1】 iDeCoへの加入申込み
- 【ステップ2】 運用商品の配分を確定
- 【ステップ3】 月々の拠出・商品の配分調整
- 【ステップ4】 60歳になったら受給開始
■【ステップ1】 iDeCoへの加入申込み
iDeCoを始めるうえでの最初のステップは、金融機関への加入申込みです。申込みは以下の流れで進みます。
<iDeCoへの加入申込みの流れ>
- iDeCoに加入できるかどうかを会社に確認する
- iDeCoを取り扱っている窓口金融機関を選ぶ
- 金融機関から申込書類を取り寄せる
- 申込書類に必要事項を記入し、必要書類とともに金融機関に郵送する
- 金融機関から国民年金基金連合会に書類が送られる
- 国民年金基金連合会で加入資格が確認される
- 加入申込み完了
金融機関を探す前に、まずは人事部などにiDeCoに加入できるかどうかを確認しましょう。会社が企業型確定拠出年金を導入している場合はiDeCoに申込みできない可能性があるためです。
iDeCoに加入できることが分かったら、取り扱っている窓口金融機関のホームページを見て、手数料や取扱商品のラインナップ、サポート体制などを比較・検討します。
いくつか候補を挙げて、資料を取り寄せるなどして情報収集しましょう。窓口金融機関が決まったら申込書類に必要事項を記入し、本人確認などの必要書類を同封して郵送します。
あとは金融機関と国民年金基金連合会の間でやり取りが行われ、書類に不備がなく、加入資格があると認められれば申込みが完了し、iDeCoの口座が開設されます。
窓口金融機関の選び方について詳細は、最後の「窓口金融機関を選ぶ」で説明します。なお、会社員・公務員の方は、勤務先に事業主証明書を記入してもらいます。
これは、冒頭の基本ルールで説明したように、iDeCoでは職業や他の年金制度によって掛金上限額が決まっており、加入者の資格を証明するためのものです。
記入は会社の人事部などに依頼することになるので、勤務先のフローやルールなどを事前に確認しておくとスムーズに進められるでしょう。
■【ステップ2】 運用商品の配分を確定
口座が開設されると窓口金融機関から口座に関する情報(口座管理サイトURL、口座番号、パスワードなど)が送られてくるので、その情報を基に取引ページにログインし、運用商品を選びます。
購入する商品数はいくつでも構いません。複数の商品を購入する場合は、それぞれの商品に対する掛金の配分を決めます。
金融機関によっては口座開設の申込時に商品を選ぶことがありますが、その場合であっても口座開設後に変更可能です。
運用商品の具体例について、詳しくは「掛金と運用商品の配分を考える」で説明します。
■【ステップ3】 月々の拠出・商品の配分調整
口座開設後、初回の掛金が引き落とされ、積立がスタートします(掛金を支払うことを「拠出」と言います)。
掛金は原則毎月26日にiDeCoの引き落としに指定した口座から引き落とされます。会社員・公務員の場合は、給料から天引きできる場合もあります。
運用する商品は日々値動きし、時間の経過に伴い残高が変化するため、定期的に運用中の商品の配分を確認します。
最初に決めた配分の状況から大きく変化している場合は、配分変更やスイッチングによって商品配分バランスを立て直します。
<配分変更とスイッチング>
▼配分変更
配分変更とは、毎月の掛金で購入する商品を変更することで、いわば掛金の使い方を変える方法です。次回購入する商品は変更になりますが、これまで購入してきた商品はそのまま残ります。これから購入する商品を見直し、商品配分の割合を調整するときなどに利用します。

▼スイッチング(運用商品預替)
スイッチングとは、現在保有している商品の構成割合を変更することです。現在保有している商品とは、月々の掛金によって購入してきた資産であり、残高と言い換えられます。
割合を減らしたい商品を売り、割合を増やしたい商品を買うことで、保有商品の構成割合を調整します。今後購入する商品への掛金配分は変更されません。

ちなみに、通常の投資でスイッチングを行う場合は、商品売却時に利益が出れば課税されるうえ、次の商品を買うときに手数料が発生することがあります。
つまり、スイッチングを行うたびに残高が減少するので、慎重になりがちです。しかし、iDeCoの場合は運用益に対して税金がかからないし、購入手数料がかからないため、積極的にスイッチングを行うことで商品配分のバランスを調整しやすいというメリットがあります。
■【ステップ4】 60歳になったら受給開始
加入期間が10年以上であれば、60歳になるとiDeCoの積立金を老齢給付金として受け取れる権利が発生します。受給できる年齢に達すると給付の案内が送られてくるので、案内に沿って給付請求を行い、老齢給付金を受け取ります。<受給の流れ>
- 受給できる年齢に達したら給付の案内が送られてくる
- 案内の中にある給付請求書類に必要事項を記入する
- 受給に必要な書類と合わせて給付請求書類を提出する
- 給付請求が受理されたら「一時金」or「年金」or「一時金と年金を併用」形式で受け取れる
60歳の時点で加入期間が10年未満の場合は、ルール上受給権が発生しません。加入期間と受給可能になる年齢は以下のように対応しています。60歳で受け取りたい場合は、50歳までにiDeCoに加入する必要があります。
iDeCoの加入期間 | 受給可能になる年齢 |
---|---|
10年以上 | 60歳 |
8年以上10年未満 | 61歳 |
6年以上8年未満 | 62歳 |
4年以上6年未満 | 63歳 |
2年以上4年未満 | 64歳 |
1ヶ月以上2年未満 | 65歳 |
出典:国民年金基金連合会(iDeCo公式サイト)|加入資格の状況に変更があった場合の手続きについて
老齢給付金の受け取り方は以下の3つのパターンで、給付請求時にこの中から受け取り方法を決めます。
1.一時金形式
iDeCoの積立金を一時金として一括で受け取る方法です。まとまったお金が欲しい、退職所得控除を適用したい、といった場合に選ばれる受け取り方です。
2.年金形式
iDeCoの積立金を老齢年金として定期的に受け取る方法です。受給期間を5年から20年の間で設定して、窓口金融機関が設ける給付プランから、毎月・年に4回・年に1回などの自分に合ったものを選びます。公的年金にプラスして生活費に余裕を持たせたい方に選ばれる受け取り方です。また、受給期間を60歳からの5年にすると、公的年金が支給される65歳までの「つなぎ年金」として利用できます。
3.一時金形式と年金形式の併用
老齢給付金の一部を一時金形式で受け取り、残りを年金形式で受け取る方法です。金融機関によっては一時金形式と年金形式の併用ができない場合があるので、事前に確認しておくと良いでしょう。
なお、70歳までに給付請求を行わない場合は、一時金形式でしか受け取れなくなります。申込み前にやっておくべき準備iDeCoへの加入申込みを行う前に、候補となる窓口金融機関や月々の掛金をイメージしておく必要があります。
また、iDeCo口座が開設されたらすぐに運用が始まるため、運用商品や商品配分についても事前に検討しておくと良いでしょう。
特に、資産運用に慣れていない場合は、情報収集や比較・検討にも時間がかかります。以下で、掛金や運用商品、金融機関の考え方・選び方について解説します。
■掛金と運用商品の配分を考える
月々の掛金は日々の生活資金に、運用する商品の配分は資産形成に大きく関わるため、申込み前にある程度固めておくのが良いでしょう。
掛金は上限額の範囲内で、無理なく拠出できる金額に設定します。運用商品の配分は、リスク許容度の範囲内で行うのが一般的です。
リスク許容度とは、運用に失敗した場合に自分が受け入れられる損失の程度を意味します。商品選びは、資産目標(リターン)と失敗したときの損失(リスク)のバランスが取れている状態が理想です。
以下はiDeCoの一般的な運用商品の一例です。金融機関によっては取り扱われていない場合もあります。
<元本確保型商品>
- 定期預金
- 保険
<価格変動型商品(投資信託)>
- 国内債券
- 海外債券
- 国内株式
- 海外株式
- 国内REIT
- 海外REIT
- 上記の投資信託商品をあらかじめ組み合わせたバランス型商品
- 金などの商品指数に連動する商品
REIT(リート)とは不動産投資信託と言われる投資信託商品の一つです。住宅やホテル、商業・娯楽施設などの物件に対して投資を行います。また、バランス型商品は、国内外の債券や株式などのさまざまな商品を一つの商品として組み合わせたものです。運用商品ごとにリスクとリターンの関係に特徴があり、以下は一般的な運用商品のリターンとリスクの大きさの相関を表した図です。
※本図はあくまでリスクとリターンの関係を分かりやすく表示したものですので、実際の商品ではこの通りにならない場合があります。
投資信託の中でも、リスクとリターンは債券・株式・REITの順で大きくなり、同様に国内よりも海外を対象にしたもののほうが大きくなります。
海外商品は為替変更リスクが加わるためです。従って一般的には、リスクとリターンは国内債券よりも海外債券、国内株式よりも海外株式のほうが大きくなる傾向があります。
このようにリスクとリターンを考慮しつつ商品の配分を決めることを「アセットアロケーション」と呼びます。これは運用する商品を決めるうえで重要な考え方の一つです。
■窓口金融機関を選ぶ
掛金と商品配分の方向性が固まったら、金融機関の候補を挙げて比較・検討しましょう。金融機関を選ぶうえで、確認しておきたいポイントは以下の4点です。
1.商品ラインナップ
ポイントは、商品種類の豊富さと自分が投資したい商品の有無です。iDeCoのように中長期的な投資の場合、投資対象を分散させてリスクを軽減する分散投資が基本です。分散投資できるだけの商品の種類が揃っている金融機関を選んでおくと、後々の商品配分変更やスイッチングにも柔軟に対応しやすくなります。
2.窓口金融機関の手数料
手数料は金融機関によって異なり、月々のランニングコストになります。そのため、サービスや使いやすさを考慮しつつ、できるだけ手数料が安い金融機関を選ぶのが良いでしょう。
3.運用商品の手数料(信託報酬額)
運用商品ごとに設定され、運用・管理の手数料として徴収される信託報酬額も金融機関によって異なります。そのため、商品内容がほぼ同じであれば、信託報酬が安い金融機関を選ぶとランニングコストが抑えられます。
4.サービスの充実度
特に金融商品の運用に慣れていない場合は、充実したサポートを受けられる金融機関が望ましいでしょう。サポートの形は窓口や専用コールセンター、チャットサービスなど、さまざまあります。サポート体制のほかにも、商品説明の分かりやすさやレポート・特典の有無などのサービス全般の充実度も比較材料にすると良いでしょう。
金融機関によって取り扱う商品は異なるため、商品選びと金融機関選びはセットで考える必要があります。そのため、金融機関を選ぶときは気になる商品の有無を検討材料としつつ、開始時の運用商品にのみ着目するのではなく、後々の商品配分調整に対応できるほどの商品の品揃えがあるかという点も重要です。
<コラム>夫婦で一つのiDeCo口座を運用できる?
iDeCoは夫婦や世帯単位で運用することはできず、一人が家族の人数分のiDeCo口座を作ることもできません。これは、iDeCoが公的年金と課税制度に紐づいており、一人一口座の規則となっているためです。それでは、税制優遇などのメリットがあるiDeCoに、夫と妻それぞれが加入しないのは損なのでしょうか?
夫妻共働きの場合は、両方がiDeCoに加入すると1世帯で2人とも所得控除を受けられるので、世帯単位で見ても大きなメリットになると言えます。また、夫と妻それぞれで掛金の上限枠いっぱいに使えば、所得控除額はそれなりの大きな金額になるでしょう。
夫婦のどちらかが専業主婦・専業主夫の場合は、片方はそもそも収入がないので拠出時の税制優遇メリットは受けられません。ただし、世帯単位で見ると掛金の上限額は2人分に増えるので、生活に余裕があって掛金を増やせる場合は、運用益の非課税メリットをより受けやすくなります。
夫婦共働きとどちらかが専業主婦・専業主夫の場合では受けられるメリットにやや差が見られますが、生活に支障をきたさない範囲の掛金であれば、いずれの場合も夫婦それぞれがiDeCoに加入することによる明らかなデメリットはありません。夫と妻それぞれが自分の老後について考えるきっかけにもなるため、ぜひ夫婦揃って加入することを検討してみてください。
まとめ
iDeCo(イデコ)とは、日本に住む20歳~60歳未満の方であれば誰でも加入できる私的な年金制度です。
月々の掛金で金融商品を運用することによって、預貯金などよりも資産を増やせる可能性があります。そのうえ、所得控除を受けられたり、運用益が非課税になったりと、税制優遇も手厚いことがこの制度の強みです。
一方で、元本割れのリスクや60歳まで資産を引き出せない点などのデメリットには留意しておく必要があります。iDeCoを始めるにあたり、掛金や運用する商品、金融機関などを事前に考えておく必要があります。
金融機関のサポートなどもあるので投資初心者の方でも運用を始められますが、専門家の意見も取り入れたい方は、ファイナンシャル・プランナー(FP)に相談してみましょう。下記よりお気軽にお問い合わせください。