2023年4月に実施された「新しい資本主義実現会議」において、政府は「退職金の所得税の軽減措置」を見直す方針を明らかにしました。
年功序列や終身雇用を前提とした、日本型の雇用慣行を改革する狙いがあります。
今回見直しを検討している「退職金の所得税の軽減措置」とは、どのような制度なのでしょうか。
この記事では、労働市場改革で検討されている「退職金の所得税の軽減措置」や「リスキリングの給付金制度」について解説します。
日本の税制度は「長く働く人」にやさしい。勤続20年の退職課税優遇措置が見直しへ


【記事執筆】FP
川辺 拓也
3,000人を超える顧客からの相談実績をもとに、社会保障制度や家計に必要な金融知識を分かりやすく提供。2級ファイナンシャルプランニング技能士。金融全般から、お金に関する政策まで幅広く専門領域があり、複数の金融メディアに多数寄稿。
退職金の所得税の軽減措置
退職金は退職所得として区分されており、受け取ると所得税が課税されます。
退職金を受け取った際の所得税は、勤続年数によって退職所得控除が受けられます。
退職所得控除の計算式は、下図の通りです。
出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
例えば、勤続年数が15年・25年の場合、退職所得控除額は以下の通りです。
勤続年数15年の退職所得控除額
40万円×15年=600万円
勤続年数25年の退職所得控除額
800万円+70万円×(25年-20年)=1150万円
現行の制度では、勤続20年を超えると、1年あたりの控除額が40万円から70万円に増額し、「退職金の所得税の軽減措置」が優遇される制度となっています。
政府は、このような、勤続年数が20年を超えると退職所得控除額が優遇される仕組みが「労働移動の円滑化を阻害している」とし、退職所得に関する税制度の見直しを検討しています。
退職金に関する制度が変わると、長く同じ会社に働き続けようとする人材が減少して、結果的に人材の流動性が活発になると見込まれています。
リスキリングに関する支援策
政府の労働市場改革では、個人のリスキリング(学び直し)を支援する給付制度や、雇用調整助成金などの見直しも検討されています。
リスキリングの経済支援に関しては、現在、企業を通じた給付が7割を超えています。
より労働者の意思でリスキリングに取り組みやすくするために、個人への給付を拡充し、5年以内を目安に、個人への給付が5割を超えるようにする方針です。
また、特別なスキルが求められる分野のリスキリングをした場合の補助率や上限額についても、拡充を検討しています。
さらに、雇用調整助成金については、教育訓練を受けたときの給付率を引き上げるなどの検討も行われています。
政府は、労働市場改革の原案をもとに検討を進め、2023年6月には方向性をまとめる予定です。
今後、退職金の制度やリスキリングに関する給付制度などがどのように変わるのか、引き続き注目が集まります。
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」