相続税は、被相続人(亡くなった人)が保有していた財産にかかる税金です。
平成27年の税制改正により相続税の基礎控除額が大幅に下がり、相続税の申告が必要となる人が増加しました。これにより、近年は相続税対策の重要性が高まってきたといえるでしょう。
相続税の計算は、まず、被相続人の保有していた財産から債務(借入金、未払金、葬式費用等)を控除し、さらに基礎控除額(3000万円+600万円✕法定相続人の数)を控除します。そのうえで、残った金額に税率をかけて相続税額を決定します。
相続税の申告が必要となるかを判断するために、まずは財産・債務の洗い出しと相続人の確定が必要です。
この記事では、相続税の基本的な考え方と生前対策について解説し、具体的な金額を用いて相続税のシミュレーションをします。相続税について不安を抱えている人は、参考にしてください。
相続対策はどうすればいい?生前贈与と相続税の軽減措置を解説


【記事執筆】税理士
佐藤 憲亮
「お客様との対話を大事に」をモットーに、気軽に相談できる専門家として税務顧問業務をメインに活動。税務記事や税務論文の執筆もおこなっている、書くことが好きな税理士。税理士事務所で12年の実務経験を積み、2020年に税理士登録。
相続税と生前贈与の基本
相続税は、相続があったときに被相続人が保有していた財産を基礎として計算します。そのため相続税の負担を軽減させるためには、生前贈与が有効です。
ただし、生前贈与は贈与税の負担が大きくなる場合があるため、どの財産を生前贈与するのかを事前にシミュレーションしておくことが重要です。同じ財産を渡すにしても、「贈与で渡す」のか「相続で渡す」のかでは、財産の評価方法や適用できる特例が異なり、トータルの税負担も大きく違ってきます。
暦年課税制度と相続時精算課税制度
生前贈与をする際、「暦年課税税度」か「相続時精算課税制度」を利用して贈与をすることになります。それぞれの課税制度の内容について説明します。
暦年課税制度
暦年課税制度を使うと、110万円以内の贈与であれば無税で財産を渡すことができます。そのため、相続対策として、まずは毎年110万円の範囲内で財産を贈与していくことを検討します。
ただし、贈与された財産については「生前贈与加算」という制度が適用され、相続開始前3年間(※)に贈与された財産は、相続時の財産に加算する必要があります。そのため、相続直前に贈与されたとしても、その財産は相続税の対象となります。(※令和5年の税制改正において、生前贈与加算の期間を7年にすることが検討されています)
なお、生前贈与加算が適用されるのは、「相続により財産を取得した人のみ」であり、相続放棄した人や遺産分割協議により財産を取得しなかった人には、適用されません。(非課税財産、みなし相続財産を取得した場合は当該規定が適用されます)
相続時精算課税制度
110万円を超えた財産を一括で子や孫に贈与する場合は、「相続時精算課税制度」の適用を受ければ、2500万円までは贈与税がかかりません。
相続時精算課税制度を活用するメリットは、不動産や株などで将来値上がりする可能性があるものを生前贈与することで、値上がり益に対して相続税が課税されないことにあります。
なお、不動産収入が生じている不動産(建物)がある場合は、生前贈与しておくことで、相続税を回避することにもつながります。
一方、相続時精算課税制度のデメリットは、当該制度の適用を受けると110万円までの贈与に適用される基礎控除(暦年課税制度)が使えなくなる点です。(なお、令和5年の税制改正において、相続時精算課税制度を適用した場合、毎年110万円の基礎控除の枠を設けることが検討されています)
また、合計2500万円以上の贈与があった場合、2500万円を超えた部分の金額に対しては、一律20%の贈与税が課されます。
また、小規模宅地等の特例などの税負担軽減措置が適用できません。これについては次で詳しく解説します。
生前贈与と相続はどちらが得
生前贈与か相続のどちらが得であるか一概には言えませんが、被相続人の財産債務、相続人の人数や状況、不動産の有無等により大きく変わります。
たとえば、被相続人と同居している親族が土地を相続した場合については、「小規模宅地等の特例」の適用を受けることで土地の評価額を80%減額することができます。
一方、土地を生前贈与された場合は、「小規模宅地等の特例」を利用することができないため、税負担が重くなってしまう可能性があります。
このように同じ不動産であっても、贈与するのか相続するのか、どのような用途でだれが取得するのかによって、税負担は大きく異なります。
親の住んでいる土地を相続する場合のシミュレーション
ここでは下記の条件で相続税のシミュレーションをしてみましょう。
- 相続財産:3億円(土地:1億円、建物:2000万円、現金1億:8000万円)
- 債務:5000万円(住宅ローンなど)
- 相続人:3人(配偶者、子ども2人)
課税財産の総額の算出
まず、財産・債務の洗い出しと相続人を確定します。この場合、被相続人と同居していた配偶者が住宅用地を取得するため、「小規模宅地等の特例」の適用を受けることが可能です。(土地1億円✕80%=8000万円の減額措置を適用します)
課税財産を算出する計算式は、以下のとおりです。
相続財産-債務(借入金、未払金、葬式費用等)-基礎控除額-小規模宅地等の特例
この場合、課税財産の総額は1億2200万円です。
課税財産を法定相続人で分ける
課税財産の総額を法定相続人で分けます。法定相続分は、配偶者:1/2、2人の子ども:1/2×1/2=各1/4となります。
【法定相続分】
- 配偶者:1億2200万円✕1/2=6100万円
- 子ども:1億2200万円✕1/4=各3050万円
相続税の総額を算出する
法定相続分に下表の税率をかけ、控除額を控除した金額が相続税です。
出典:国税庁「相続税の税率」より作成
【相続税の総額】
- 配偶者:6100万円✕30%-700万円=1130万円
- 子ども:3050✕20%-200万円=各410万円
- 相続税の総額:1130万円+410万円+410万円=1950万円
相続税を按分する
相続税の総額を、遺産分割の内容によって相続人へ按分します。たとえば、下記の内容で遺産分割を行った場合の相続税を算出してみましょう。
【遺産分割の内容】
配偶者:9000万円
(内訳)
- 土地建物:4000万円([土地:1億円]−[小規模宅地等の特例:8000万円]+[建物2000万円])
- 現金:1億円
- 債務:△5000万円
子ども:各4000万円
(内訳)
- 現金:4000万円
【按分した相続税】
- 配偶者:1950万円✕(9000万円÷1億7000万円)=1032万円 → 0円(※)
- 子ども:1950万円✕(4000万円÷1億7000万円)=各459万円
※相続により配偶者が取得した正味の財産額が、法定相続分相当額または1億6千万円を下回るときは、無税で相続することができる「配偶者の税額軽減」を適用することができるため、この事例では配偶者の税負担はありません。
相続税の税額調整
相続税の計算上、シミュレーションで適用した「配偶者の税額軽減」のように、相続人の状況により税負担の調整措置があります。相続税の加減措置は以下のとおりです。
相続税の2割加算
被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の人が相続した場合は、その人の相続税額の2割に相当する金額が加算されます。
暦年課税に係る贈与税額控除
相続により財産を所得した人が、相続開始前3年以内に贈与を受けて贈与税を負担していた場合は、負担した贈与税分の金額を相続税から控除することができます。
相続時精算課税に係る贈与税額控除
相続時精算課税制度の適用を受けて納付した贈与税分の金額は、相続税から控除することができます。
配偶者の税額軽減
相続により配偶者が取得した正味の財産額が、法定相続分相当額または1億6千万円を下回るときは、相続税はかかりません。
未成年者控除
相続人が未成年者(18歳未満)の場合は、相続税から一定金額を控除することができます。
障害者控除
相続人が85歳未満の障害者の場合は、相続税から一定金額を控除することができます。
相次相続控除
相続開始前10年以内に被相続人が相続税を負担していた場合は、相続税から一定金額を控除することができます。
外国税額控除
相続により国外財産を取得し、国外で相続税に相当する税金の課された場合は、その外国税額を相続税から控除することができます。
まとめ
この記事では、贈与税と相続税の基礎的知識、財産を贈与と相続で受け取った場合の税負担の違い、各種相続税制について解説してきました。
相続対策を検討する場合は、まず財産債務を洗い出し、どのように財産を分配するのかを検討する必要があります。専門的な知識を要するため、税理士などの専門家に相談をしてみるのもよいでしょう。相続人同士で揉めないよう、相続対策は早めに動き出すことが重要です。